焦点 セルフケア
解説
保健行動学からみたセルフケア
宗像 恒次
1
1国立精神・神経センター精神保健研究所
pp.428-437
発行日 1987年10月15日
Published Date 1987/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200944
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1.さまざまなセルフケア論
セルフケアという同じ言葉を使ってはいても,そこにはさまざまな概念がみられる。その1つは,米国を中心に盛んになってきている,専門的な医療を拒否して一般の人々が自己治療を行なうという,市民運動の流れの中で用いられている概念である。また,その反対の極には,患者が医療従事者の指示に従って自己管理を行なうという,コンプライアンスと同様の意味のものもある。
欧米では,完全には治癒しえない慢性疾患の増大や,年々高騰する医療費の負担増の中で,慢性疾患がライフスタイル病であることがわかってきて,ライフスタイルの改善に関心が集まる一方,黒人,少数民族,婦人,障害者などを中心とする市民権拡大を求める市民運動や,環境,行政,食品,医療品などの問題に対して企業,行政,医療機関の従来のあり方を問い直す消費者運動など,諸々の社会的,政治的な背景の下に,1970年代,1980年代にセルフケアに対する関心が大きくなった。こうした脈絡で意味されるセルフケアとは,自分の健康を増進し,疾患を予防し,病気を回避し,病気から回復しようとする個々人の活動であり,しかも,専門家や一般の人々の経験から得られる知識や技能を活用はするが,専門家の助けを全く借りない活動という,L.S.レヴィン,E.L.アイドラーの定義が最も代表的なものである。これは,医療がもつ専門家主義やビューロクラティズムや産業主義を排しようとする政治的な動きを伴っている。
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