焦点 看護における実験的研究
解説
心理学における実験研究の特徴
石原 静子
1
1和光大学人文学部
pp.17-22
発行日 1981年1月15日
Published Date 1981/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200632
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実験は,心理学の主な研究方法の1つである。そう聞くと,意外な顔をする人がかなりいる。心理学と言うと,人の心の奥やこまかいヒダをとらえたり,人生の喜び悲しみを語る学問だと思い違いしている人が,案外多い。大学で初めて心理学を学ぶ学生も,実物に触れてがっかりする向きが,年々かなりの数いるらしい。
なぜ実験が心理学の主な方法かと言うと,答は簡単だ。心理学は,人間の自然科学的研究をめざす学問で,自然科学の一番重要な方法が,物理や化学に典型的なように,実験だからである。今から120年ほど前,心理学が発足した頃,研究に参加した人たちには生理学者が多かった。人間の体の構造や機能についての研究は一足先に進んでいたわけで,その成果をふまえて,同じ自然科学の方法で今度は「心」にいどむことになったのである。初めのうちは,「心」を意識と考えてやっていたが,とりとめなく移り変わる意識を実験でうまくつかまえることには,限界があった。今世紀の初めにワトソンが,心理学の対象を意識でなく行動とすべきだと主張してから,いろいろ曲折はあったが,外に表れた測定できる行動を手がかりとして,実験中心に研究する「行動の学」が心理学だということに,今ではほぼ共通理解ができている。
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