焦点 看護における実験的研究
解説
生物を対象とする実験研究の特徴
石川 統
1
1東京大学教養学部生物学教室
pp.11-16
発行日 1981年1月15日
Published Date 1981/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200631
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基礎科学と応用科学
ひとくちに「研究」とか「実験」とか言っても,実際には基礎科学か応用科学かによって,その内容も,また価値判断の基準も大きく異なっている。アメリカの著名な医学者,ルイス=トーマスが述べている。両者の違いは「驚き」の違いなのだと。基礎科学の研究においては,得られた実験結果の意外性が強ければ強いほど,その価値が高いと言っても過言でない。予期したとおりの結果を積み重ねていき,研究を完成させるのは最終段階であり,初めから新鮮な驚きを与えないような研究は行う価値がないとさえ言える。応用科学では話はまるで逆である。すべての過程において「驚き」や意外性の入り込むすきがあってはならない。むしろ,確立された製法で製造されていた製品が,ある日どういうわけか突然に製造できなくなったなどという「驚き」があっては,一つの企業の息の根を止めかねないし,似たことが病気の治療の段階で起これば,その医師や機関は医療過誤のそしりを免れない。応用科学では初めに予測された以外の結果が得られた場合には,それはすべて「失敗」と判断される。したがって,言葉の厳密な意味においては,看護を含めて医療のような応用科学に「実験」はありえないと筆者は考える。しかし,医療という応用科学が今後も日進月歩していくためのエネルギー源は,生物学という基礎科学の発展に求める以外にないのは明らかである。その意味では,生物学,最近の言い方では「生命科学」の実験の特徴を考えてみるのも無意味ではないであろう。
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