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I.はじめに
ある日,調査者の1人は,病棟師長に同伴して,フィールドワークを行なっていた。午前11時半過ぎ,そろそろ日勤の看護師が昼の休憩に入る時間だ。師長は,ナースステーションで明日,明後日の勤務表を見て,リーダーなどの役割を割り振りながら,モニター内の救命救急センター病棟(救命救急センターとICUの機能を併せ持つ病棟;以下,救急病棟)の患者を見ていた。
そこに,電話がかかってきた。これを受けた師長は,3名の患者の名前とそれぞれの状態をメモしていく。話の内容から,救急病棟からの電話であることがわかった。すでに師長は,救急病棟に入院している患者を確認しており,その情報と照らし合わせて救急病棟の師長と相談をしているようだ。まさにそのとき,ナースステーションの動きが大きく揺らいだ。
(フィールドノーツ)
D 救急カートを持ってナースステーションを出ていく。
A 電話を持ったまま,ナースステーションの入口まで出て,様子を見る。「じゃあ,1回切りますね」
D A師長のところに戻ってきて,「患者(1)さん,EPS後に血腫ができていて,いま,血圧が低くなって……」と報告して,再び病室へ戻っていく。
C Dさんに続いて,患者(1)さんを見にいく。
A 11号室(個室)を見にいく。そのまま患者(1)さんのベッドサイドへ。「C(係長)さん,11号室空けて移れるようにしておいたから」。そう言って,ナースステーションに帰りながら「あとは,任せておこう」とつぶやく。ナースステーションに戻って(救急病棟師長へ)電話をする。「やっぱり個室使うことにしましたから。すみません」
(D;看護師,A;師長,C;係長)
この場面は,検査後に血腫ができて血圧が下がった患者の急変に,看護師Dさん,C係長らが対応し,A師長が,個室を確認してそれが使用可能であることを告げに行き,ナースステーションに戻って救急病棟の師長に,空いていた個室を病棟で使用することになったと伝えている場面である。このとき私は,A師長がナースステーションに戻りながらつぶやいた「あとは,任せておこう」という言葉が気になった。近くにいて一緒に動いていなければ気づかないようなつぶやきだったが(Goffman,2000/串田訳,2000)註1,これには師長のある見方,そして実践の特徴が現われているように思われた(前田,2012)。
本稿では,このつぶやきを手がかりにして,病棟師長が自らの実践をいかに成り立たせているのかを記述したい。併せて,この記述をもとに,本特集のテーマでもある「看護を語る」ことが,いかなる営みであるのかを検討する。
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