増刊号特集 1.博士論文を書くということ─あのときの問いといまの問い
ニューマン・プラクシス・リサーチに魅了され,導かれて
三次 真理
1
1武蔵野大学看護学部
pp.339-343
発行日 2014年7月15日
Published Date 2014/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100929
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あのときの問い
私の探求の問いは,ナースとしての実践上の問いからスタートし,発展してきたものであった。当時の私は,日々ケアをする喜びを感じる一方,治癒を期待することができずに苦しむ患者とかかわることに,恐れや戸惑いも感じていた。全力を尽くしてかかわった患者の死後,怒りに震える奥様から,「あなたは,何もしてくれなかった!」という言葉をぶつけられた瞬間のことを,いまでも鮮明に思い出すことができる。それ以来,死を前にした患者や家族とかかわることは,私にとって極めて困難なことになっていった。
模索の末に進学した修士課程で,マーガレット・ニューマン(1994/手島訳,1995)の「拡張する意識としての健康の理論」と出会ったことで,凍りついていた私の心は溶け,不思議なくらい楽になった。この理論に導かれたパートナーシップのケアを通して,私は,終末期にある方々と,これまでに味わったことのないような深い結びつきを体験することができた。ニューマン理論のもとでは,治癒しないこと,死にゆくことにも,人間全体の成長という点において意味がある。このことを実感したとき,私の看護観,死生観に大きな転換が生じたのである。窮地に陥って苦しむ患者とのかかわりは,私にとって,心を開いて自己を投入するべく大切なことへと変わっていった。
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