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はじめに
禁煙における会話の重要性
1.現在の保健指導の実態
“3分診療”と揶揄される昨今の外来診療において,本研究の対象となる禁煙外来では,1人の患者との間に要した会話数は,最小12,最大178,平均約45会話であった(1会話を患者,医師の順番交代の発話の1組合せとする)。この診療に一体どれだけの時間をかけたのであろうか。時間でいえばおよそ2分から30分,平均7.5分である。大した時間をかけているわけではない。にもかかわらず,他の禁煙治療では1年後の再喫煙率が7~8割との調査結果がある中で,本診療では2~3割程度にとどまるという成果をあげている。同じ禁煙治療のはずなのに,何が違うのであろうか。それは禁煙のための保健指導内容,すなわち会話内容である。
効果的な保健指導を実現するための会話分析には,以下の3点の課題がある。1点目は,効果的な保健指導のテキストは多く発行されているが,実際の保健指導の会話場面を部分的ではなく会話全体について分析した研究は非常に少ない(小林,宮島,2009)こと。2点目は,保健指導の最大の目的で最も困難な点,すなわち生活の質(QOL)向上のための行動目標の共有と行動変容であり,そのためには高度な保健指導の技術,すなわち会話技術を要すること。3点目は,効果的な保健指導について「テキストマイニングによる暗黙知の形式知化」を行ない,技術を発展させる(服部,2010)必要があることである。看護の他領域と同様に保健指導の会話分析は必要であるにもかかわらず,これまで十分になされてこなかった。
本稿では,会話分析の考え方(前田,水川,岡田,2007)を踏まえ,禁煙外来における患者と医師の会話をテキストマイニングにより質的・量的に分析する。これまでになかった新たな発見を生み出すことを目的とした,探索的研究(いとう,2013)である。
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