特集 経験を記述する 現象学と質的研究
扉
西村 ユミ
1
1首都大学東京健康福祉学部
pp.310
発行日 2012年7月15日
Published Date 2012/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100665
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人々の経験を理解することを志向した研究方法は,たくさん紹介されている。研究の蓄積もあり,一定の成果もみられる。例えば,患者の経験を理解することは,その人の状態に応じたケアの実践を考えることを助ける。ある困難な状況に置かれた者の経験は,それを生み出す社会的枠組の問題性を,私たちに突きつける。経験を積んだ専門家の語りや実践は,その固有の実践の特徴をあぶり出し,同時に実践の継承として機能する。人々の経験を理解しようとすることは,互いの経験を交換し,新たな実践を生み出していこうとする私たちの営為でもある。
この,「経験を理解する」という営みにはいくつかの次元がある。これまでの多くの研究では,ある状態にある者の「経験内容」を探究することに関心が注がれていた。経験内容の探究では,そのような状態にある人々に“共通して”みられる事柄を求め,概念モデルや理論構築がめざされる。この取り組みは,経験を学問知へと練り上げていく1つの方向と言ってもいいだろう。
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