書評
会話分析が導く患者参加へのアプローチ
小山 幸代
1
1北里大学看護学部
pp.317
発行日 2011年6月15日
Published Date 2011/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100532
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ヘルスケアの主体が患者であるということは,専門職にとっては自明であるし,多くの患者が期待することでもあるだろう。近年の社会情勢もそれを推進している。しかし,現実のヘルスケア実践の場で,理念としての“患者主体”が容易に具現化できるものではないということも,私たちは日々の経験から痛感している。本書は,こうした“患者主体”が,専門職と患者とのコミュニケーションにおいてどのように実現あるいは阻害されているのか─すなわちヘルスケア場面における患者参加の実態─を,さまざまな質的研究の方法を組み合わせながら探求している。
なかでも多用されている研究方法が会話分析である。会話分析は,相互行為としての会話を分析する社会学の質的研究法である。会話分析を用いた研究では,実際の相互行為場面の録音・録画を分析データとして,独自のルールに従って文字化したデータを提示した詳細な分析過程が示される。この分析過程が実に興味深いのである。本書で提示されているデータの多くが,専門職が日常で当たり前に行なっている患者との会話である。しかし,そんな当たり前の会話から「看護師のこの発話がこの位置でなされたことによって,患者が関与する機会が奪われている,なぜならそれは…」と,当事者も気づかなかったような事実が明らかになってくる。それぞれの事例の分析過程をたどる際には,ぜひ自分が行なってきた患者とのコミュニケーションについて振り返りながら読み進めてほしい。「ああ,そうだったのか!」と反省を促されるデータや,「このように話しかければ,それがきっかけとなって患者が関わるチャンスが生まれるのか」と気づくデータに出会うだろう。
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