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はじめに
1996(平成8)年の指定規則のカリキュラム改正を受けて,カリキュラムの検討をするなかで出会った『Toward a Caring Curriculum : A New Pedagogy for Nursing』(Bevis & Watson, 1989)は,行動主義モデルでの教育を批判しつつも具体的な代替案をもたなかった筆者にとって,看護教育の新しい方向をガイドする極めて示唆に富む本であった。1999(平成11)年には『ケアリングカリキュラム─看護教育の新しいパラダイム』(安酸,1999)として翻訳本を出版した。Watsonは,この本の執筆時はコロラド大学の看護学部学部長であり,教員と学生が総力をあげて行動主義モデルからの脱却を図り,ケアリングを中心理念にしたカリキュラムへと変革する仕事を行なってきた,と述べている。Watsonは『ワトソン看護論』(1988/1992)で彼女のケアリングの概念を世に問い,Bevisと共著の上記『ケアリングカリキュラム』(1999)において,看護教育のなかでケアリングの概念の重要性について提唱した。Watsonは本書のなかで,看護実践においてケアリングが重要であることは経験的に認められるようになったものの,ケアリングの本質に関するコンセンサスはいまだ不足していると述べ,またケアリングがどのような現象を指すのかといった共通見解はみられていないと指摘している。
筆者は,この翻訳書の前書きに,「看護界全体が何十年もの間信じ,規範としてきたパラダイムを変えることは,並大抵のことではなく,個人的にも組織的にも痛みを伴うことである。パラダイム・シフトが必要だと頭で理解したからといって,すぐに行動が変わるものでもない。行動主義のパラダイムは看護界全体に浸透しているパラダイムであり,従来の教育を受けた看護師一人ひとりにしっかりと刻みこまれているパラダイムだと考えている」と書いている。ケアリングカリキュラムの考え方は,看護基礎教育の高等教育化の波のなかで新しい看護教育を模索していたわが国の看護教員たちの注目を集め,確実に支持層を増やしてきたのではないかと感じている。その間,看護系大学の数は飛躍的に伸び,2010(平成22)年4月の段階では193校にまで増えている。しかしながら,翻訳書出版から10年以上経過した現在に至ってなお,わが国の看護界においてケアリングの本質に関する共通見解は,いまだ得られていないのではないかと感じている。そこで,ケアリングの教育について本稿で再度考えてみたいと思う。
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