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はじめに
質的研究方法を用いて学位論文を執筆する場合,どのように質を保障していけばよいのだろうか。量的な尺度開発なら,構成概念の数,アイテム数に応じて必要とされるサンプル数が決まり,既存の計算式に結果を通すことで信頼性,妥当性を証明することができる。またコンピュータを駆使することで,10例,20例でも介入効果に有意差を証明することも不可能ではなくなった。
しかしこうした量的研究であっても,新たな尺度の構成概念やアイテムを特定していく過程では,領域の有識者の見識と経験から,内容妥当性を証明する。もちろん有識者がもつ膨大な知識を論拠に査定を行なう方法ではあるが,そこには部分を集めた全体に基づく判断にとどまらず,経験を重ねた研究者(人間)の,「何かある」「何かが違う」という,統合体としての認識に基づく判断も含まれるだろう。
この場合,方法論として問われるのは,有識者の判断が直感や経験といった主観に基づいてそれらが行なわれることではなく,どのような観点で複数の有識者を人選し,それぞれの助言をどのように反映させて,構成概念やアイテムを洗練していったのかを記述することである。つまり問われるのは,単に主観や直感による判断であることではなく,どのような方法や手順,あるいは何を重視して結果を洗練し,コンセンサスを得たかを明らかにすることではないだろうか。この一連の手順を記述したり,既存の研究で用いられた検証方法を活用して研究結果の信頼性を高めるという視点は,まだ国内の質的研究の評価にはあまり取り入れられていない。
今回,筆者らが取り組んだプロジェクト「質的研究方法を用いた看護学の学位論文評価基準の作成に関する研究」では,研究の一環で,米国・カナダの7つの大学院にてインタビューを行なう機会を得た。本稿では,そのなかで筆者がインタビューを行なったG大学大学院において,質的研究の評価に関して得られた示唆について述べることとする。
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