- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
グラウンデッド・セオリー・アプローチを,本書の著者の書籍や論文,研修会で学んだ方は少なくなかろう。日本では,A. ストラウス版グラウンデッド・セオリーの伝道師といっても過言ではない。ストラウス氏の直弟子として,この手法の運用の確かさに定評のある著者の作品群は,看護領域を超えて,(心理学者である筆者を含む)隣接領域の研究者に知られている。こうした著者のもとには,入門書たる前著『ワードマップ グラウンデッド・セオリー・アプローチ─理論を生みだすまで』(新曜社)で自習したりした学習者から,あまたの疑問や悩みが寄せられ,それに答えたのが本書だという。「これでもう,同じ質問はしないでくださいね」と,冗談交じりに書かれるくらい,後学の徒に頼られているのである。著者への質問は主に,以下の4系統からなるという。①データの切片化の範囲,②現象分類の方法,③カテゴリー関連図の統合方法,④事例の個別性を理論に織り込む方法。かなり発展的な問いの設定だ。本書は導入の次,活用の段階を進む者への指南書と位置づけられており,経験者が対象なので,基本用語の説明は省かれている。
各問いに,1章ずつが割かれる。院生の得てきた,現役看護師の語りが最初に示される。書き起こしを終えたばかりの,研究の初段階が共有される。著者の説明を辿って,この情報を整理していくよう促される。続いて分析が段階的に進められ,区切りごとに著者による分析が例示される。やがて興味深い知見が浮かび上がってくる仕掛けだ。生データに近い,まとまった量のデータを与えられて,実際に作業を進める体験型自習書として練習機能をもたせた構成が,本書の特徴といえる。いわば,書籍版のゼミが経験できる。最終章では,研究メモの習慣づけなど,裏話的な研究のコツが披露される。一連のデータ整理の目的は,「研究」にほかならないからだという。
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.