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検討に検討を重ねた翻訳作業
私は,仕事上英語を使うことが多く,産婦人科医として妊娠・出産に関することは専門分野の一つです。WHO資料の作成に携ったこともありますので,“WHO recommendations : intrapartum care for a positive childbirth experience”の日本語版翻訳書(『WHO推奨 ポジティブな出産体験のための分娩期ケア』,以下,本書)のお話をいただいた時,その企画に大いに賛同すると共に,翻訳ならすぐできるだろうと考えていました。ところが,始めてみると,翻訳のなんて難しいこと!!
手始めに56の推奨項目の翻訳に取りかかりました。推奨項目の英文一つ一つに対して,3人の訳者が訳案A・訳案B・訳案Cを考え,統合し,他のメンバーがコメントを付けて,最終翻訳文を作り上げていきました。一語一句,最良な訳語を選ぶのは思うほど簡単ではありません。例えば,“supportive care”という用語一つとっても,支持的なケア,支援的なケア,寄り添うケア,補足的なケアなどの訳語が挙げられますが,おのおの微妙に意味合いが異なります。最良な訳語は何か,何度も話し合いを重ねて進めていきました。また,どのような意図でその一文を入れたのだろう,どのような状況のことを言っているのだろう,日本での実践はどうかと,単に翻訳をするにとどまらない,深い議論が繰り広げられたことも一度や二度ではありません。その後,各項目の担当メンバーが,備考や本文の訳案を作成してくれましたので,私は全体的な表現の統一性や,英文が正確かつ自然な翻訳文になっているかの確認を中心に取り組みました。翻訳メンバー,監訳の永井真理先生といった方々全員で磨き上げた本書を,こうして出せたことをうれしく思います。
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