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正常出産ガイドラインの改訂のねらい
2018年2月,世界保健機関(WHO)は“WHO recommendations : intrapartum care for a positive childbirth experience”を発表し1),その日本語版翻訳書が2021年3月に医学書院から発行されました2)。このガイドラインは,WHOによる初めての正常出産ガイドライン「Care in Normal Birth: a practical guide」(日本語版翻訳書『WHOの59カ条 お産のケア実践ガイド』農山漁村文化協会)の,22年ぶりの改訂版として位置付けられています3,4)。新ガイドライン*は「ポジティブな出産体験」を,「女性の個人的・社会文化的信念や期待を満たしたり,超えたりするような体験であり,臨床的にも心理的にも安全な環境で,付き添い者と,思いやりがあって技術的に優れた臨床スタッフから,実際的で情緒的な支援を継続的に受けつつ,健康な児を産むような体験」と,具体的に定義しています。
このような温かみのある出産体験をWHOが目指すこととなった背景には,それまでの母子保健戦略の世界的潮流が,妊産婦の死亡率という,極端な事例に着目した指標の削減に焦点を当てていたことと関連しています。ところが,妊産婦死亡を減らすこと自体は,女性の受ける妊娠中や分娩時のケアの向上,または,女性の幸せな出産体験に必ずしもつながらなかったことが分かってきました。女性を中心に据えた,「ケアの見直し」という視点が欠けていたのです5)。妊産婦死亡率の削減のために出産の医療化が続くことで,女性の産む力が損なわれ,出産体験に悪影響を及ぼすことへの懸念から,世界共通のより良いケアの実践を確立することを目的に,WHOは正常出産ガイドラインの改訂に着手した経緯があります。
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