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はじめに
科学技術の進歩による出生前診断の変遷には目を見張るものがあります。特に,2013年に日本に登場したNIPT(Non-invasive Prenatal Test)は,母体血に一定割合で混入する胎児染色体を調べることによって胎児の遺伝情報を知るというもので,羊水検査や絨毛検査といった一定の危険を伴うこともなく安全とされ,また,その感度・特異度の高さから急速に広まることが予想されました。そこでNIPTコンソーシアムという一種の自主規制団体が遺伝学的出生前診断に精通した専門家による自主的組織として設立され1),5年間の臨床研究期間を経て,実施施設基準を緩和するという声明が出されようとしています(現在,保留中)。しかし,検査を実施する全ての医療機関がこのコンソーシアムに参加しているわけではありません。
NIPTに限らず,胎児の遺伝学的検査の結果を受け,妊婦ならびにカップルが意思決定をしていく過程の支援については,NIPTコンソーシアムの臨床研究で検討された遺伝カウンセリング体制では不足していると考えられています。検査結果の告知を受けた妊娠の中断/継続判断のいずれについても,その後の継続的な心理的支援は必要であり,そのためには産科医療機関とも当事者団体とも異なる第三者的相談機関の設置が必須であると考えられます。
さらに,現在の胎児の遺伝学的検査技術の進展状況は,当初の13番,18番,21番染色体のトリソミーといった量的異常から,22q11.2微小欠失といった微小な変化まで検出されるという技術進歩に見られるように,すでにダウン症などのトリソミーの範囲を超え,はるかに広汎な領域の人々を対象としたものになっていると認識すべきです。ダウン症を持つ子どもの家族として抱く懸念は,「もはやダウン症に限られたものではない。そもそもどうしてダウン症だったらいけないのか」,という議論が進まないうちに,ダウン症は排除されてもいい存在であるという間違ったメッセージが浸透していくことです。
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