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はじめに
母親は子育てにさまざまなストレスを抱えていると言われているが,同じようなストレッサーを体験しても,ストレスを強く感じる母親とそうでない母親がいる。LazarusとFolkmanは,心理的ストレスを「人間と環境との間の特定な関係であり,その関係とは,その人の原動力(resources)に負担をかけたり,資源を超えたり,幸福を脅かしたりすると評価されるもの」と定義している1)。また,ストレッサーによる影響は認知的評定とコーピングによって異なり,コーピング(coping)に成功した場合は,ストレスが心身に及ぼす影響を低減させることができると考えられている。
Lazarusらの理論によれば,子どもの気質やそれに基づく子どもの行動などのストレッサーの存在だけでは,育児はストレスにならない。育児に関係するストレッサーを母親が脅威と感じ,対処能力が限られていると判断した場合に,ストレスと認知される。その結果,母親は,児童虐待や精神的障害などを引き起こし,子どもの心身の健康・発達を阻害する可能性がある。
良好な母子関係の形成と子どもの健全な発達のためには,不適切なコーピングをとる母親に対して,適切なコーピングがとれるような支援や介入を行なう必要がある。しかし,育児ストレスに関する研究では,育児ストレスの要因について述べられたものが多く,ストレスとコーピングについて検討されたものは少ない。
そこで,本論文では,母親の育児ストレスが最も高いとされる産後1か月における育児ストレス,および母親の育児ストレスに対するコーピングの実態を明らかにする。それにより,育児ストレスを軽減させるコーピングを検討することで,母親に対する具体的な援助方法を導き出すことができると考える。
本研究においては,現在,ストレスの生じるメカニズムに関して最も影響力のあるモデルであるLazarusらのストレスとコーピング理論に依拠して,母親の抱える育児負担感に対して「育児ストレス」という用語を用いることにした。
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