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はじめに
全国的に産婦人科の医師不足が問題になるなか,出産を取り扱う産科施設の75%で助産師が不足し,その不足数は約6700人程度と報告されている(日本産婦人科医会:助産師充足状況緊急実態調査,2006)。この報告により,産婦人科医師の不足に加え助産師不足も周知の事実となり,母子の安全な分娩を行なうためのわが国の産科医療体制が極めて深刻であることが浮き彫りとなった。
さらに,分娩を取り扱う医療機関2905施設のうち,必要な助産師の数を満たしていなかったのは75.3%に当たる2188施設であることも報告され,今後のわが国のさらなる出産環境の悪化が危惧される。
これらの状況を考えれば,出生率が低下している昨今でも,助産師の働く職場の需要はあり,就職活動にも支障がないと誰もが認識しているように見受けられる。しかし,病院に勤務する助産師との会話や就職活動をする学生と接するなかで,産婦人科閉鎖に伴い助産師が追いやられているのではと感じるようになってきたことは否めない。
突然の産婦人科閉鎖により,同じ病院内の一般科病棟に看護師として配置転換せざるを得なかったり,助産師の仕事を続けるためにその病院を退職するという決断に追い込まれたりという事例を耳にするようにもなってきた。助産師の間で,専門職業人として本意ではない事態が起きていることがうかがえる。
母子の健康増進や女性の健康への支援を専門とし,正常分娩の介助ができる助産師の存在を重要視している医療機関では,院内助産院を開設する動きも出ている。しかし,院内助産院を持つ医療機関はまだ約30か所である。開設には産婦人科医師の協力が必要であり,助産師の力量も問われるため,容易なことではない。助産師が助産師として働く職場は病院とは限らないが,助産師としての力量を蓄えるために,まず病院勤務を経験して異常分娩も含めた周産期管理について学ぶ意義は大きい。その病院が閉ざされてしまうことはどういう結果をもたらすだろうか。
産婦人科閉鎖で,「わが子を産む場所がない!」という声が聞かれるが,その視点を母親から助産師に移せば,「助産師の働く場所がない!!」という構図が生じているといえる。今回は,実際に突然の産婦人科閉鎖に追い込まれたある病院の状況と,そこで働く助産師や医師の思いに迫りながら,出産の現場で起こっている“助産師切り”の実態と高度専門職業人としての助産師像について考えたい。
なお,本文中の所属や肩書きは,取材をした2009年3月時のものである。
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