連載 筆から想いは広がって・6
天空から,胸の底へと
乾 千恵
pp.800-801
発行日 2007年9月25日
Published Date 2007/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665101082
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十四,五歳の頃の,ある晩のこと。ふと,光を感じて目が覚めた。閉じたまぶたの内側の「視界」が,闇ではなく,ほのかな白い光に包まれているのだ。射るような,朝日のまぶしさとも違う。(何?)と思いながら目を開けると,西の窓から月がのぞいていて,ちょうど寝床の私の顔を照らしているのだった。その頃習ったばかりの漢詩の一節,「牀前,月光を看る」を思い出し,しばし不思議な思いで月に見入った。誰かに不意に声をかけられて捜してみたら,相手は空の上で笑っていた。そんな感じだ。
それからも,月とは「逢瀬」を重ねている。その時どきに会う月の姿はさまざまだ。白く乾いた昼の月,プラチナ色の光を放つ夕月の妖しさ,空に現れたばかりの赤い月,そして金色の舟さながらに,夜空をゆっくりと渡る月……。
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