連載 筆から想いは広がって・4
丘の上に立つ友だち
乾 千恵
pp.622-623
発行日 2007年7月25日
Published Date 2007/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665101050
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「もうちょっとすっきりした『樹』が出てくれないかなぁ…」筆でこの字を書いた時,そう思った。白樺やポプラのような,細くてすらりとした樹の姿が書きたいのだが,墨を含んだ筆の穂先から最初に生まれる線は,どうしてもたっぷりしたものになってしまう。頭にあるのが細身の字でも,紙の上に出てくるのは,太く,ずっしりとした木偏なのだ。
昔から,花よりも樹に心惹かれた。学校へ通う道の途中にある小高い丘の上に,一本の樹が立っていた。種類は判らないのだが,ほっそりとした幹や,両手を広げるように大きく二つに分かれた枝ぶりが美しく,上品な印象を受ける姿だった。
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