連載 バルナバクリニック発 ぶつぶつ通信・25
小さな家族4人
冨田 江里子
1
1St. Barnabas Maternity Clinic
pp.362-363
発行日 2006年4月1日
Published Date 2006/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100095
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それまで落ち着いていたジェシカは排臨になって様子が変わった。考えられない会陰の灼熱感に顔を歪めながら,自分の会陰に何が挟まっているのか確かめるように手を伸ばしてきた。介助している私の相棒のティナが,「赤ちゃんだから……」とジェシカの手を払いのけようとするのを,私は制止した。ジェシカは指先で赤ちゃんに触れると,納得したようにまた呼吸を落ち着けた。
ようこそ,私たちの家族
それから2回の陣痛で小さな赤ちゃんを産んだ。直ぐにお腹に乗せられた赤ちゃんに,ジェシカはまっすぐ視線を注いだ。多くの産婦はしばし放心した表情を浮かべることが多い。しかしジェシカは明らかに違った。大喜びするでもなく当たり前のこととして,まっすぐわが子を抱き上げたのだ。一切言葉はない。赤ちゃんも大きな目を開け,しっかりとジェシカを見つめている。生まれた時に一声ふぎゃと言ったきり静かな呼吸をしている赤ちゃん。羊水が極端に少なかったので妊娠中,胎児はあまりいい環境ではなかったのだろう。しかし,この子の穏やかさは何ひとつストレスがなかったかのような状況だ。
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