特別寄稿
特別な存在としてではなく,人々に寄り添って—フィリピンの小さな産院から
冨田 江里子
1
1St. Barnabas Maternity Clinic
pp.853-858
発行日 2002年10月25日
Published Date 2002/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611902969
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
「エリコ,エリコ……」。扉の外から遠慮がちな声が聞こえて目が覚めた。相棒のティナの声だ。時計を見ると夜1時。きっと誰かの陣痛が始まったのだろう。横で寝ている2歳と5歳の子供を夫に頼み,外に出た。フィリピン,マンガハンの夜空にもうすぐ満月になる月が輝いていた。
陣痛が来たのは近所に住む19歳の初産婦。予定日を13日も過ぎ,この4,5日お腹が痛むと時々やって来ていた人だ。産院に近づくと中から,彼女の「アライコー(痛いよー)」という声が聞こえてきた。陣痛の痛みは予想を超えた種類の痛みだ。彼女はもう半分パニックになっている。母親が手を握っておろおろしている。外には夫や父親,兄弟,そして彼女の声に起こされた近所の人たちも心配して集まってきた。急に強く痛み出したようだ。
Copyright © 2002, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.