書評
『LGBTQ+の健康レポート—誰にとっても心地よい医療を実装するために』
大木 幸子
1
1杏林大学保健学部看護学科 地域看護学研究室
pp.549
発行日 2024年12月10日
Published Date 2024/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664202128
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数値の中にある物語
私たちの信じている「常識」とは、マジョリティ(多数派)の思い込みである場合が多い。そうした事象のひとつに、セクシュアリティがあるのだろう。マジョリティである異性愛者の中には、セクシュアリティの多様性について十分認識していると考える方も少なくないだろう。しかし、“生活を共にしている同居人”がいると察すると、それは妻あるいは夫であることを前提に話をしてしまい、DVは夫から妻への、あるいは男性から女性に対する暴力だと想像してはいないだろうか。そのような思い込みに気づかせてくれるのが本書の魅力でもある。
本書は、LGBTQ+当事者の人権、健康、社会関係、医療、教育などに関する深刻な問題と当事者の孤立を、著者の大規模な量的調査結果を示しながら、浮かび上がらせる。8章で構成され、第4章までの第1部は、当事者の現状を概説し、国内外の人権課題、カミングアウトとメンタルヘルス、性暴力とDVが取り上げられている。各章で引用される調査結果は、「思い込み」の前で声を出せず不可視化されてきた困難を可視化した当事者の声である。数値の中に人びとの物語が読み取れるのは、調査結果の記述の前後で、丁寧に社会的背景や歴史的動向、海外の状況が紹介されているからであろう。特に第1章に収載された当事者の声では、セクシュアリティの多様性に対する理解や配慮のない医療者のふるまいや医療機関のルールによって、病いや死に直面する人生の重大な場面で、無理解さへの対処に心と頭を使わざるを得ない状況が語られている。
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