連載 保健活動の現場を変えるEBPH エビデンスの探し方と活用の仕方・3
—活用事例①—行動に制限がかかる状況における母子の健康
梅田 麻希
1
1兵庫県立大学地域ケア開発研究所
pp.242-246
発行日 2021年3月10日
Published Date 2021/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664201617
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【事例シナリオ】
大都市圏にあるA県では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のクラスターが複数発生し,小中学校の全校休校が決まった。明石保健師が勤務するB市でも,市長が不要不急の外出を避けるように呼び掛けている。
B市はA県のベッドタウンで,子育て世代に人気のエリアだ。明石保健師が担当している地区にあるマンションにも,共働きの子育て世帯がたくさん入居している。ある日,明石保健師が電話を取ると,いら立った声の女性からだった。後ろでは,喧嘩をしている子どもたちの声が聞こえる。
「この近くで感染者が出たんですよね? ニュースで見ました。うちのマンションじゃないかしら。私は在宅勤務にして,家で子どもを見てるんです。小学校が休校になってから,私も子どもも10日間一歩も外に出ていないし,買い物は全部宅配。でも配達の人からだって感染するかもしれないでしょ? このままここに居てもいいの? 市は何してるの? 早く収めてくれなくちゃ,息が詰まりそう」
明石保健師は,女性の勢いに圧倒され,ただただ話を聞くことしかできなかった。電話を切った後,大きなため息をついた明石保健師に,先輩の築地保健師が「これが参考になるかもよ」と1本の論文を手渡した。原子力発電所事故後の福島で行われた介入研究の論文だった。
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