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はじめに
近年,精神科を受診する成人患者の中で自閉症スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorder:ASD)と診断されるケースが増加している。特に,成人女性に関しては,多くの未診断ケースが存在し,支援が十分に届いていないと言われている1)。また,母親が高機能ASDの場合,障害特性である対人能力の障害,社会の障害への理解不足による社会的孤立などから,子育てへのストレスが高く,育児困難を背景とする抑うつなどの精神症状を発生しやすくなり,ひいては子どもの不適切な養育につながると指摘されている2)。
筆者は,高機能ASDと診断されている母親およびASDが疑われる母親14名を対象に,インタビューによる質的研究を実施した3)。その結果,母親の困り感は,妊娠期から既に始まっていること,特に乳幼児期の子育て期に困り感が集中していたことが明らかとなり,妊娠期から切れ目のない支援の必要性が示唆された。
そこで,高機能ASD圏の母親への支援課題に対応するために,妊娠期から子育て期にわたる切れ目ない支援を目的とした「妊娠・出産包括支援モデル事業」(以下,モデル事業)の後継事業である「子育て世代包括支援センター」を活用した,包括的な早期支援および多職種間連携による支援の提示を行った。モデル事業は,高機能ASD圏の母親のみを対象とした事業ではない。しかしながら,モデル事業が展開されることで,母親に対する地域での包括的・継続的な子育て支援が行われ,子育ての困り感を有する高機能ASD圏の母親への早期発見と,多機関連携による早期支援につなげることにより,リスク予防としても機能することが期待できる。
そこで,モデル事業を実施した市町村を対象に,同事業における高機能ASD圏の母親への保健師等の関わりについての現状や課題を把握することを目的に,郵送式による質問紙調査および電話による補足的インタビュー調査を行った。
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