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はじめに
自然災害に多く見舞われる日本において,被災者だけでなく援助者の心のケアも大きな課題である。阪神淡路大震災以降,援助者の心のケアについてさまざまな研究がなされてきた(たとえば,日下ら1),丸山2)など)。それらの研究の多くは被災地に赴いた支援者を対象とした研究であり,被災地在住の災害援助者については,われわれの知る限り野島ら3)が消防官を対象とした横断的研究を行ったものがあるに過ぎない。大規模災害では,援助者の心理的負担については,その被災状況や長期的な時間経過といった観点を含めて詳細に検討する必要があると考えられる。
災害後の心の変化についてさまざまな研究がなされる中,近年では葛藤状況やストレスの後にポジティブな変化を経験する人もいるということも指摘されている。心的外傷的な出来事との遭遇が,個人のポジティブな変化を導くことをTedeschiとCalhoun4)は心的外傷後成長(post traumatic growth:PTG)とした。Kyutokuら5)は東日本大震災被災地域の成人を対象とした調査を行い,PTGにつながる要素やPTGが生活の質の向上に寄与することなどを明らかにしている。ここから,大災害がもたらすネガティブな影響だけでなくポジティブな影響にも目を向け,より包括的に心理的影響を明らかにすることは,その後のストレスの対策や援助者の心理的状態の向上につながるものと期待される。
そこで,本調査では東日本大震災において援助活動に携わった自治体保健師を対象に,保健師自身の被災状況や長期的な時間経過といった観点にもとづく個別面接を行い,その語りの内容を質的に分析する。調査の目的は,被災地で活動する保健師の被災状況や援助活動を通してのポジティブ・ネガティブ両方の影響を考慮した長期的な心理的プロセスを明らかにすることである。
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