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はじめに
発達障害は,感情,注意,思考といった内面的な能力障害をきたすため周囲に気づかれにくく,社会への適応困難から,その能力を発揮する場や機会を失うことで社会的な損失へとつながる可能性がある。2005(平成17)年4月の発達障害者支援法の施行により,各都道府県および市町村は発達障害を早期に発見し,成人期以降に続く一貫した支援を行うこととなった1)。
2012(平成24)年の文部科学省調査は,全国の公立小中学校において発達障害の可能性をもつ子どもの割合を6.5%と見積った2)。今後,障害に関する概念を広く普及させるとともに,市町村における早期発見・早期支援のための体制づくりが求められる。
わが国の障害児者に対する施策は,第2次世界大戦後に整備され,1945(昭和20)年以降身体・精神障害,知的障害を対象として,主に福祉領域において整備されてきた3)。なかでも発達障害については,発達障害者支援法が成立後まだ間もないこともあり,主に保健・医療領域にて活動してきた保健師にとっては,その支援技能の習得・向上が必要な者も多く,いまだ試行錯誤の段階にあると言える。実際,発達障害者支援の困難さを軽減するために,厚生労働省をはじめとした関連機関は多様な研究・研修を行っている4)。
ここで,健やか親子21のホームページにある「取り組みのデータベース」を活用し,「発達障害」をキーワードにして検索すると,2014(平成26)年12月現在で107件が抽出された。その内容の半数近くは発達障害の親子に対する支援事業であるが,その主たる事業内容は発達障害が疑われる親子を対象に開催される育児教室であり,主体的な参加が原則となる。そのため,問題を認知できない,あるいは障害受容ができなければ,教室に参加できず療育のチャンスを逃す可能性がある。
一方で,療育支援を希望しても,受療まで待機時間が長くなれば,日々の養育困難から,虐待へとつながる可能性もある。しかし,これらは全国3232か所ある市町村の3.3%の事例に過ぎず,実際の市町村における早期発見・療育の現状についてはいまだ明らかにされていない。
以上を背景として,本調査は,筆者らの所属施設が属している自治体の現状について把握するため,母子保健事業実施の中心である市町村保健センターにおいて,岡山県の発達障害対策がどのように実施されているかを明らかにした。
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