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はじめに
わが国における65歳以上の要介護者からみた介護者の主な続柄は,配偶者が25.7%と最も多い1)。また,高齢期に介護が必要になった場合に「配偶者あるいはパートナーに介護を頼みたい」と回答した者の割合は,男性66.0%,女性29.6%で,いずれも他の続柄よりも多く2),高齢配偶者間における,いわゆる介護者・被介護者がともに65歳以上である配偶者間の「老老介護」は,今後もわが国における家族介護の主流であり続けると考えられる。
先行研究3,4)によれば,老老介護における妻介護者は,介護以外にも趣味や気分転換を行い,自分自身に目を向ける姿勢がみられるが,夫介護者は,生きがいの源泉を介護のみに求めることが多いとされる。また妻介護者には,介護は家族の手で行うものという意識がみられるが,夫介護者には,介護を他人に任せたくないという囲い込み意識をもつ者が多いとされる。
また,妻が重介護状態となれば,家事や妻の身の回りの世話まで,すべて介護者に委ねられるが,夫介護者が介護を引き受ける際,もとより疎い家事や排泄・入浴介助などの役割を担うことになる場合が多く,このことが介護負担感に関連するという指摘がある5,6)。すなわち,重介護者に対する老老介護において,夫介護者と妻介護者では,介護における体験や意味が異なると考えられるが,とくに増加が予想される夫介護者についての報告は,妻介護者に比べて乏しい。
老老介護は,老いた介護者に自身の老化と肉体的限界,死に向き合わせつつ,配偶者としての義務という強固な意識を自らに課すものであるという指摘がある7)。しかし,配偶者としての意識が夫介護者と妻介護者とで必ずしも同様とは限らない。
そこで本稿では,介護における困難や問題がより大きいと考えられる,重度の介護(以下,重介護)を要する老老介護における夫介護者の介護の体験について,全体的に記述することとした。老老介護における夫介護者の体験を理解することは,保健師はもちろんのこと地域の看護職にとって,対象者の体験に寄り添った,適切な支援をするうえで意義のあるものと考えられる。
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