連載 ニュースウォーク・148
「その時は…」に答えられない社会―ALSと呼吸器
白井 正夫
1
1元朝日新聞
pp.670-671
発行日 2010年7月10日
Published Date 2010/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664101425
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「裁判所はあなたに深い同情を感じています」。執行猶予つき有罪判決を言い渡したあと,裁判長は「いまも難病で苦しむ人や家族は葛藤のなかで生きている」と嘱託殺人罪に問われた男性被告を諭しながら,異例ともいえる「同情」の言葉を添えた。少し旧聞になるが,今年3月5日,横浜地裁で一番広い506号法廷でのシーンである。
知るだけ,切なくなるほど重苦しい事件だった。亡くなった妻は2004年8月,難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の長男から懇願されて人工呼吸器の電源を切って死なせていた。彼女は嘱託殺人罪で執行猶予中だったが,長男と一緒に死ねなかった悔やみから死を願っていた。難病の長男を死なせた妻を,今度は夫が死なせたのである。
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