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はじめに
「精神障害」という言葉がもつニュアンス,とくに偏見につながる意味合いを払拭するために,近年「メンタル障害」という言葉が使われるようになりました。医療界も同様で,「精神科」ではなく「メンタルケア科」と表示している医療機関もあるようです。臨床で精神科医療に携わっていると,このような背景以外にも,「メンタル障害」と表記したほうが妥当だとする理由があるような気がします。それは,最近の社会の変化とシンクロして新しい概念の精神科関連疾病が生まれ,古い精神医学の概念で定義される「精神障害」とは意を異にするようになっているからです。
精神疾患に限らず,疾病の多くはライフスタイルの変化によって変わっていきます。生活習慣病がそのよい例です。この10年の日本人のライフスタイルの変化は,それ以前の50年の変化よりも大きいものです。現代のスピード社会の波に乗ることだけでも相当なストレスですが,さらにシステムの変革が加わり,それに追いつけず倒れた人たちが,さまざまなメンタル障害を引き起こしています。また,希薄になった人間関係が原因で起こる対人関係問題や猟奇的な事件,自分勝手が原因で起きるメンタルな問題などが次々と生まれています。どれも20世紀の精神医学体系では分類できないような問題で,“精神疾患”と呼ぶべきかどうか迷うような精神科関連の問題が生じていることからも,「精神障害」より「メンタル障害」という表記のほうがふさわしいと思えます。
これらのメンタル障害のなかでも,最近になって知られるようになったもの,病的体験などの明らかな症状がないもの,常に何らかの症状があるのでなく,時折メンタル不調となる場合などは,本人に“精神疾患”という認識がなく,自ら医療機関に赴くことはほとんどありません。しかし,自分で問題を解決するのはなかなか難しいことですから,誰かの力を借りて状況を改善したいと行動を起こします。その格好の場所となっているのが,気軽に相談できる職場の健康相談や保健所・保健センターです。いま相談対応の業務についている保健師なら実感できるはずです。
彼らは,当然「相談機関に行ったからには,何か解決策や成果を得たい」と考えていますが,すぐに解決策やよい成果が得られるようなケースは稀であるため,多くは満足が得られないという結果になります。その不満の負の感情が,保健師の対応や接遇に対してクレームを並べ立てるエネルギーに変換されてしまうケースもみられます。さらに,最近では,「障害」とまではいえない「メンタルな問題」を抱える人たちが業務を滞らせる原因となって,保健師を悩ませているようです。
本号ではこれまでのおさらいも兼ねて,最近の「メンタルな問題」を抱える人たちとの関わりのポイント,そのとき気をつけておきたいことや工夫について解説します。
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