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この本は,著者が2003年に行った子育て実態調査の結果(「兵庫レポート」)を,ベースとなった「大阪レポート」(1980年)と比較し,そこに著者の臨床やボランティアの経験を加味して,いま求められる子育て支援の方向性を提言したものです。日々の親子との出会いから感じる印象が,数字で表されており,地区組織活動にいかすための説得材料満載です。たとえば,母になる前の育児体験の減少と安定した育児や発達との関係,子育てグループが仲間作りや孤独解消には役立つものの,育児不安や負担感の軽減には繋がりにくく,子育てを楽しむ母を演じる親の姿が伺えたりします。また,これらの数字を,団塊の世代の後の1950年代前半生まれを対象とした「大阪レポート」と,経済的安定に恵まれ,バブル全盛期に思春期を謳歌した団塊ジュニア世代が対象の「兵庫レポート」として眺めると,興味深いものがあります。20数年を隔てた社会世相の変化は,生活スタイルや育児観などにも影響を及ぼし,生活臭さの乏しい世代が,「自分中心の生活」と「親としての諦め」との間で揺れる様子も伺えます。
「本当に求められる子育て支援」を追及したい著者は,地域に広がる資源(活動)の方向性も述べており,この思考は保健師も同様です。地域資源は,自治会や婦人会,伝統的な祭りなどいわゆる文化も人も含みますが,子育て支援の切り口で考えても,関連法規や制度上の資源,育児グループ,NPO,子ども会など多岐にわたります。保健師は,ケースワークのなかで,ときには資源活用を勧めますし,家族が選択して「ほどよく子育てをし続ける」プロセスも支援します。既存の資源で不十分とわかれば,内容の調整や新規開拓のためのアクションも起こすでしょう。このとき,統計結果は絶対ではなく,傾向で読み解き,傾向から外れる人々の存在にも目を向ける姿勢を忘れずに活用すれば,地域の子育て力のボトムアップを目指した施策化にむけて,本書はその脇を固める貴重な資料となります。
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