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人間的事象としての死(1)
田村 真
1
1東京大学医学部血清学教室
pp.741-745
発行日 1976年12月25日
Published Date 1976/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907046
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はじめに
死をめぐる問題と看護という主題は簡単な問題ではない.死について考えるということからして,はなはだ広く難しいことである.たとえば‘死’の反対語は何かと問うてみよう.‘生’と答えるのが普通であろうが,あまりにもばく然としている.‘誕生’とか‘愛’とか積極的な生の概念が適当ではないかという考え方ができる.また‘病気からの回復・治癒’(convalescence)ではないかとも思われる.さらに‘夢’と答える方もおられるかも知れない.死後の世界と夢の世界との類似性に着目すれば,それも面白い考え方である.
私たちは1人1人死を免れえない生物体として生きている事実からして,死は決して他人事ではない.しかも医療職にある私たちは,患者の死という事態に事あるごとに接せざるを得ず,そのときそれから眼をそらすことができないのである.真剣に考えようとすればするほど,迷路に誘い込まれるような恐れが感じられる.死の問題はそのように奥深いもののようである.
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