自己自身として生きるために/人間学的断想・4
現代社会のひずみのなかで ひとは果たして自己自身として生きうるか
谷口 隆之助
1
1元八代学院大学
pp.656-660
発行日 1976年10月25日
Published Date 1976/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907035
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自分自身にたいする問い
いま,わたしたちにとって基本的に必要なのは,自分自身を問うという態度だといっていい.自分自身を問うということは,当然,単に自分をめぐる外側の社会や世界の問題を問うことではない.もちろん,それらの問題を問うことがわたしたちにとって不必要だ,などというのではない.しかし,いま,わたしたちは,自分をめぐる外側の問題を問うことにだけ急なあまり,自分自身を問うことをまったく忘れている,というのがわたしたちの実情であり,また根本の欠陥だ,と,わたしは見るのである.
わたしたちが自分自身を問うということは,わたしたちが自分のいま現にそのなかで生活しているこの現実の社会的状況のなかで自分自身を問う,ということである.しかも,そのことは,そこでいま生きている自分を単に対象化して点検する,ということなのではない.それは,自分自身が主体的に自分自身を問う,ということである.そして,ひとが主体的に自分自身を問うということは,ひとが自分自身にたいして主体的にかかわるということなのであり,さらに,そこでは‘問う’ということ自体が,すでにそのままで,ひとが自己自身として‘生きようとする’ことにほかならない,ということなのである.
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