本との対話
—永山則夫著—無知の涙/—永山則夫著—人民をわすれたカナリアたち
菅 龍一
pp.168-172
発行日 1972年3月25日
Published Date 1972/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906568
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定時制高校中退
著者は1968年10月10日東京プリンスホテルのガードマン射殺をはじめ,10月14日京都八坂神社の警備員を,10月26日に函館市で,11月5日には名古屋市でそれぞれタクシー運転手を射殺した<広域重要事件108号>の犯人である.翌1969年4月に逮捕され,7月より<反省録>として渡された大学ノートに記入した獄中記の10冊めまで,つまり1970年10月までが前者であり,それ以後1971年10月までのものが後者である.
ぼくがこれらの本をとり上げようと思ったのは,著者がかつて定時制高校に入学し,そして中退していったことを知ったからである.‘もしかしたら,彼はぼくのクラスにも存在し得,そして,中退して行ったかもしれない’そう考えたとき,ぼくはこれらの本をぜひとも読まねばならないと思ったのである.定時制高校では中退者が多い.ぼくはいま電気科1年生の担任であるが,34名で出発したクラスが1年を経た現在27名である.転勤などによる転学者を除いても,数名が学業を放棄していった。彼らのほとんどは,ぼくに‘心を開かぬ’まま退学した.彼らの中に‘永山則夫’が存在しないという保証がどこにあるだろうか.
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