本との対話
—武谷 三男 著—科学入門
菅 龍一
pp.102-106
発行日 1972年2月25日
Published Date 1972/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906557
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だまされない人間になること
昨年の雑誌“展望”4月号に‘新たなファシズムに抗して’という題で,著者と作家の山代巴さんとの対談が載っている.‘大切なのは正直ということじゃない,だまされない人間になるということ’という山代さんのことばを受けて,著者は,科学の歴史の中でも,自然というのは非常に複雑だから人間はしばしばだまされる.だまされながら,いかに事実を明らかにして本当のものを見出していくかという歴史,それが科学の歴史の教えるものです.私の科学入門はその観点から書いたものです.と語っている.このことばが,木書のモチーフをよく表わしている.
この連載でしばしばふれてきたように,高度成長を逐げてきた工鉱業生産は,この国の人間と自然を破壊してきた.単に工場廃棄物のみならず,製品であるところの農薬,医薬品,食品添加物もこの人間と自然の破壊に手を貸してきた.であるから,その工業生産をささえる科学や技術に対する国民の不信の念が,きわめて根深いものであっても不思議ではないだろう.
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