教養講座・文化人類学・9
未開社会の経済と宗教
高橋 統一
1
1東洋大学
pp.68-72
発行日 1969年8月1日
Published Date 1969/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906221
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
22.未開社会の経済
未開社会の経済,いわゆる原始経済の研究は経済史の分野で,未開民族の環境への技術的順応や生業形態の発展過程といった問題が主に扱われ,経済機構としての生産・分配・消費などの分析的側面が問題にされることは少なかった。これは近代文明社会の経済現象を取扱う経済学にあっては,分析対象である経済現象の基盤としての文化や社会の一般的環境は自明の前提で,直ちに資本・労働・貨幣・価格などの専門概念が適用できるのに対し,未開社会での経済現象には文明社会と異なる経済観念や価値感覚があり,それらが親族組織・呪術宗教儀礼などさまざまの他の要素と深く結びついているので,経済学的専門概念や用語がすぐに適用できない,という事情によるものと思われる。他方,未開社会を主な対象としてきた文化人類学が原始経済のこうした分析的側面の研究を通して,経済学に寄与することが少なかったのは,その研究の多くが記述的で経済学的な厳密な概念や分析方法に不慣れであった,という事情もあるし,同時に経済学の側でも原始経済を云々するに際して,かなり大まかな臆説や非実証的な理論の範囲を出なかったことが,二つの学問の交流を妨げていたと言える。今日,未開後進地域の経済開発の問題が重要な課題となってきているが,こうした点からも,今後は両者の交流や協力がもっとはかられてしかるべきである。それはともかく,まず未開社会の経済(生業)形態からみてゆこう。
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.