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原田義人の死
長谷川 泉
1
1医学書院編集部
pp.75
発行日 1960年12月1日
Published Date 1960/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663903958
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今年も終わりに近づいた。ふりかえってみると安保問題をはじめ宇宙船の打ち上げなど歴史をゆるがす大きなことがらがいくつかあった。身辺の人たちにも生死いくつかの送迎のことがあった。宇宙世紀において,地球の,そして人類の将来がどうなってゆくかという大きな次元での問題,巨視的な問題のなかで,身辺の1人の人が死んでゆき,身辺の1人の人に新しい生命が賦与されてゆくといったような微視的なことがらは,一体どうつながるのであろうか。生まれたり,死んだりしてゆく,その主体にとっては,それはかけがえのない絶対のことであるのだが,悠久の宇宙の生命のなかでは,1人の人間の生死の問題は,大海の中の流砂の1つぶみたいなものである。
ある意味では,その大海の流砂の1つぶに,今年は私にとっては忘れられない友人原田義人の死があった。新聞に出たから知る人は知ったであろう。原田は一高時代から周囲に敵を作らない,きわめて奉仕的精神に富んだ男であった。彼の一見ひよわそうな,きゃしゃな,そして実は芯の強い身体を支えた生命は燃焼し尽きてしまったが,彼の常に微笑をたたえた叡智のまなざしと誰にも愛される風貌姿勢は,永久に消えないおもかげを残している。東大教養学部助教授の原田義人は死んだが,私たちの友人原田義人は,やはり永遠に生きている。今でも「ヤア」と手をあげて「人なつっこい微笑が呼びかけてくるようである。
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