連載 景色の手帳・6
雨あがり
武田 花
pp.408-409
発行日 2000年6月25日
Published Date 2000/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902264
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長雨で家の内も外もじとじとしている。洗濯物を部屋の中に干したから、ますますだ。と、突然、窓からまぶしい光が射し込んできて、干したシーツが白く光った。さっきまで暗く垂れ籠めていた雲の隙間からの一条の陽光。久しぶりに撮影に行かれそうだ。化粧をして、着替えて、リュックを背負った。
地下鉄の駅の階段を上がると、四角い出口の向こうに、梅雨の晴れ間の青空が雲を押し退けるように広がっていた。黒々と濡れた道路は、朝の光をギラギラと鈍く反射している。家も電信柱も雀も、何もかもが妙にくっきりと濃く見えるような気がする。橋の上から川向こうを眺めれば、強い陽射しを浴び、湿った町全体から湯気が立ち上りそうだ。
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