連載 「進学コース」教育の意味・3
青年期の発達課題と准看護婦教育
榛葉 由枝
1
1天竜すずかけ病院
pp.1048-1051
発行日 1997年12月25日
Published Date 1997/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901747
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老人病棟のデイルームの片隅に,不機嫌な顔のTさん(84歳,男性)が車椅子に座って何やらしきりに怒っている.8本あったストローの1本が紛失したとのこと.懐には一度使ったと思われるちり紙が,何枚も詰め込んである.寝まきを兼ねているトレーニングウエアは,食べこぼしのしみで汚れている.車椅子の周囲には広告の紙切れや乳酸飲料の空容器などで,はち切れそうに膨らんだ袋がぶら下げてある.傍らで受け持ちの看護婦が途方に幕れている.着替えと身辺整理を促した途中の出来事のようである.Tさんの雑然とした身の回りと汚れた衣服は,いつも看護上の問題としてカンファレンスに上がっていた.
Tさんは戦後の間もない時期に,荒涼とした雑木林を開拓して,辛うじて生活をつないできた.夫人はすでに他界し,独身の長男が半身不随になった父親の世話をしている.飽食の時代と言われる現代であるが,Tさんの苦労話を聴いていると,たとえストロー1本でも捨てる気にならないだろうし,少しぐらいの汚れでいちいち洗濯していたら勿体ないという,根強い思いも納得できる.
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