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はじめに
昨年秋、ニコラ・フィリべール監督の映画『人生、ただいま修行中』が日本で公開された。フランス・パリ郊外の看護専門学校の学生たち40人の150日間を追ったドキュメンタリー映画である。この映画については、雑誌『精神看護』(2019年11月号)ですでに紹介したのだが、今回のテーマには格好の素材だと思うので、ここでも取り上げたいと思う。
フランスでは看護基礎教育は主に看護専門学校で行われている。看護専門学校は職業訓練校と同様に位置づけられており、授業料は公費負担である。そのため、移民や経済的な困難をかかえた学生も多い。映画にも日中は断食しなければならないラマダンの時期と実習がぶつかったと語るイスラム教徒の男子学生や、「実習中に下宿の窓が破られパソコンを盗まれたが、支えてくれる家族のためにがんばらなければ」と話すカリブ海に浮かぶ島から来た女子学生などが登場した。まさに看護専門学校は社会の縮図でもあるのだ。
その影響は授業にも反映されている。たとえば、「看護師は誰にも分け隔てなく看護しなければならない」という大原則を教えた教師が、続けて「でも実際には耐えがたい悪臭を放つホームレスの患者が来ることもある。そんなときには、どうすればよいか」と問いかける。答えは、「嫌な顔をせず、さりげなく口で息をする」。また、「ナイフに刺された患者の処置」といった内容もあった。
このように、現実の世界を授業の題材に積極的に取り入れているのは、1年次から「インターンシップ」が始まるという事情もあるのかもしれない。字幕では「実習」と訳されていたが、1年次から看護スタッフの一員、学生看護師として実践に参加させられるのだ。しかも、今回撮影された1年次の実習も5週間という長さであった。その間、臨床指導は現場の指導者に任され、教員はついていかない。学生たちは、その場で指導者にいろいろと指示されながら、かなり高度な看護技術をいきなり実践するのである。あらかじめ基本的な技術は学内演習で学んでいるとはいえ、見るからにおっかなびっくりである。おそらく、リスクをおそれる日本では、あり得ないだろう。
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