- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
実践家たちからの学びが、地域包括ケアの時代の道しるべとなる
地域包括ケアシステムを2025年までにすべての市町村に構築するという国の政策も残すところ6年となり、その進捗状況には市町村格差がかなり見えてきている。本書に収載された講義は、かねてFacebook上で1万人以上のメンバーに周知されてきたものである。受講者は全国からそれぞれの地域や立場の違いを越えて、たぶんかなりワクワクして気づきの多さに驚きながら実際に参加したのだろうと想像をふくらませた。筆者も書評を書くという役目を忘れ、夢中で読みふけった。付箋の数が頁を繰るごとに増えていった。
本書に収録されたカレッジ講義には、「教授」として、優れた実践家にとどまらず「未来の課題解決のために全力で取り組んでいる情熱的かつ魅力的な専門家」(「はじめに」より)が招聘されている。彼らのメッセージはどれも刺激的で魅力的であるが、ここでは高齢者ケアの学び(第Ⅱ部)に注目したい。筆者は、これがあらためてわれわれ専門職に求められているものと実感した。第Ⅱ部では7人の教授による新しい知見や自身の確信に基づく実践知が余すことなく披露されており、筆者は生活モデルの下位概念としての医学モデルという考え方をあらためて想起した。対象者の生活の質を上げるため、対象者自身がもっていた力を取り戻してもらうため、医療は最新の知見に基づき、知識や技術を用いる。治す医療から治し・支える医療への転換は、医療の役割をしっかりと果たすことを前提としつつ、それを何のために行うのか、の認識の問題といえる。その認識のあいまいさが、時として必要のない医療の提供となって、本当に必要なサービスが提供されないという実態がまだあるように感じている。
Copyright © 2019, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.