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■はじめに:地域社会の変化と病院
かつて病院は,地域社会においてどこか周囲から屹立しているイメージが強かったが,今日では,地域社会と多様なかたちで結び付きながら,より多面的な機能を果たそうとしている.
その背景として第一には,超高齢社会における医療の課題が,病気を完治させることのみならず,生活の質を高めることに広がってきた現実がある.障害者福祉の分野で使われてきた「医療モデルから社会モデルへ」という「標語」は,(異論も含めて)広く言及されるようになっている.2013年の社会保障制度改革国民会議報告書において,「病院完結型」の医療から「地域完結型」の医療への転換が説かれたこともこれに関連していよう.
第二に,超高齢社会における健康寿命の延伸や,介護予防の推進が掲げられるようになったことも重要である.その際に,一部の高リスク群をスクリーニングする「ハイリスク・アプローチ」のみならず,広く住民の交流や活動のなかで健康増進を図る「ポピュレーション・アプローチ」が併せて強調されるようになった.地域社会のあり方のなかに,豊かなつながりをどう広げ,健康への日常の動機付け(ナッジ)をいかに埋め込むか,病院として無関心ではいられなくなっている.
第三に付け加えれば,コロナ禍のなか,公衆衛生の視点から病院および医療機関と地域における教育,福祉,行政機関との連携が強く意識されるようになった.
以上のことは,医療の視点から見た地域社会との関係の変化といえよう.これに対して本稿が主に扱うのは,こうした議論の前提となる地域社会そのものに関して,今日提起されている新たなビジョンについてである.
地域社会における支え合いと,その制度化というべき地域福祉について,大きな転換が進められている.先に見た医療の側からの地域社会への接近は,このような,地域社会の側の変化に由来する医療への新たな期待と交差することで,初めてしっかりかみ合った展開となるであろう.以下では地域共生社会という言葉を手がかりに,地域社会の変容と政策対応を整理し,そこから浮上する病院の役割について考えたい.
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