連載 実習の経験知 育ちの支援で師は育つ・17
フェイドアウトの技
新納 美美
1
1北海道大学大学院理学院自然史科学専攻
pp.62-66
発行日 2013年1月25日
Published Date 2013/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102298
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陽のあたる人気者が羨ましいけれど……
どこの世界の人気者も何かと得をしがちです。看護系の学校にも人気を博す教員が必ず存在するものですが,人気者の座についたことのない私にとっては少々羨ましい話です。ついつい学生からの人物評が気になってしまうのが人情というもの。しかし,それよりも,一番の気がかりは自分の支援が良かったのか否かでしょう。「自分だけがうまくいったと思っているのでは……?」。支援の技を磨く修行に終わりはなく,経験を重ねるほど他人が教えてくれることもなくなり,気がつけば自らを評価することが難しくなっていました。そんなとき,教え子のポジティブな言葉は蜜より甘いのです。
大学を退職する少し前に,教え子の一人と話す機会がありました。彼女は,私が担当した実習で大きく視点が変わったと話しました。「なんか実習しながら自分で気づいたんですよね。何でかなぁ……,別に先生が何か教えてくれたわけでもなかったし」。彼女は,グループ支援が非常にうまくいった実習グループで学び,個別支援でもこちらの刺激によく反応して,実習の中盤以降,本当によく伸びました。もちろん,熱心に現場の仕事を見せてくれる指導者に恵まれていたからこそ学生が学ぶ気持ちになったのですが,指導者の熱心さに応えられる学生の伸びを支えるために,控室では介入に力を入れていたのでした。にもかかわらず,彼女は支援されていたことにまったく気づいていなかった!正直なところ,少しがっかりしました。しかし,教え子の横顔を見ながら,自分が学生のときに聞いた言葉を思い出したのです。
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