特集 学問としての在宅看護論の確立へ
―【教育現場を経て実践の場で活躍する先達からのメッセージ】―「開業ナース」として教育・研究・実践のいずれにも邁進する
村松 静子
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1在宅看護研究センターLLP
pp.782-783
発行日 2012年9月25日
Published Date 2012/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102190
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実践から教育,そして開業へ
私が大学づくりで出向したのは36歳のときだった。実践の場から教育の場へ。教育者として実習の場へ。そこにはさまざまなドラマがある。学生とひとつになって患者・家族と向き合う。
「先生,“桃の缶詰が食べたい”って言うんです。奥さんも“食べさせたい”って……」「あなたは?」「はい,食べさせたいです。でも,看護師さんに“禁食なんだから食べさせられないでしょ?”って言われて……」。そう言ってうなだれた学生の姿が今でも浮かんでくる。「それじゃあ,とにかく,ご主人に食べさせたい物を買ってきてもらいましょうよ」「はい!」。学生は急に元気になって駆けていった。そして笑顔で戻って来ると,「先生,奥さんが缶詰を買ってきました」。学生に導かれて行くと,そこには笑顔の奥さんがたくさんの缶詰を抱えて立っていた。美味しそうな大きな桃を1枚のガーゼに包んで口いっぱいに含ませた。「美味い!」。あのときのみんなの笑顔が忘れられない。患者さんも奥さんも学生も私も大満足,そんな笑顔だった。残りの缶詰は目線の脇の台の上に並べて積み重ね,いつでも目で食べられるようにした。私たちの精いっぱいの工夫,懐かしい思い出の1コマである。あのときあそこで起こった情景は学生の脳裏にきっと焼きついた。教育者としての私が大事にしていることは,心に心で「対峙」すること,看護するときと同じである。
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