連載 実習の経験知 育ちの支援で師は育つ・2
育てる土壌づくりは一対一のコミュニケーションから
新納 美美
1
1東京大学大学院医学系研究科
pp.858-861
発行日 2011年10月25日
Published Date 2011/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663101899
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
生きる力と育てる力
小さな子どもに向き合うとき,その圧倒的な生命力に感心します。ありったけの力を使って周囲の育てる力を引き出そうとする姿……生きるために世話をしてもらう力も環境から学ぶ力も,子どもの頃が一番強いのかもしれません。それゆえに,子どもが自らコントロールすることのできない“出逢い”がとても重く感じられます。出逢う人と環境によって,そのなかで身につく“生きるための力”が違ってくるからです。
子どもの成長・発達といえば,保健師として遭遇したある場面が,不思議と音のない映像で思いだされます。それは,発達障害が心配された子の事例で,関係者との連携をとろうと保育園を訪れたときの場面です。集団に入れず走り回るその子,あとを追いかける保育士,それを気にする周囲の子どもたち,遠くで号令をかける保育士,曇り空,色味のない園庭に整然と並ぶ色とりどりの装いの園児たち……。そのとき自分が何を感じたり考えたりしていたのかは記憶に残っていませんが,子どもの動きを眼で追いながら,その周りから発信される刺激を意識していたのを覚えています。発達はその子のペースであることや,生活のなかで体験することが生きるための力や世界観を形成することを,理屈ではなく現実として感じ取り始めたのはこのときだったのかもしれません。
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.