連載 なぜから始まる授業 基礎看護技術はなぜそうなのか?・8
“自転車に乗れた日の喜び”を体位変換で
若村 智子
1
1京都大学大学院医学研究科
pp.770-773
発行日 2009年8月25日
Published Date 2009/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663101285
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相手に近づくことへの慣れから
今回取り上げたいのは,体位変換や移動の技術の体得についてである。この単元は,私たちの授業の組み立てで説明すると,「生活リズム」「コミュニケーション技術」と並んで,基本的な単元に位置づけているため,講義が始まって初期に取り組む単元である。他の演習を進めていくうえでは,どうしても先に押さえておきたい内容である。1年生の後期とはいえ看護学専攻に入学して間もないので,いわゆる教養科目の割合が専門科目に比して多い時期でもある。
この単元では,体位変換や移動技術を学生同士で療養者役になったり看護師役になったりして練習する。そのためどうしてもお互いに接近する距離が近くなり,同性同士で抵抗を感じている様子が伺える。しかし,この躊躇は,看護師としていつかは乗り越えなければならない壁である。最初の,躊躇しながら相手の身体に触れている状況も必要な段階として,私は大きい心で認めているものの,授業の終わりまでには,その「躊躇」は克服してもらわねばならない。その小さな抵抗に対して,明るくさわやかに,「もう少し近づいてみて」「遠慮(の心)がみえているねぇ」「ほら! うまくできたでしょ」「楽に動かせたね」とそばで私は大きい声を出しながら看護独特の距離の取り方を実感してもらう。恥ずかしがっているペアやグループがあると,周囲にもその影響がすぐに全体のやる気低下につながってしまう。まずは,相手に物理的な距離で近づくことの必要性と感覚を理解することが大切である。
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