連載 スクリーンに見るユースカルチャー・26
過去の自分の言葉
小池 高史
1
1横浜国立大学大学院環境情報学府
pp.921
発行日 2008年10月25日
Published Date 2008/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663101039
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尊敬するピカソのような偉大な画家になることを夢見る主人公ジェロームは,入学したアートスクールで挫折する。自分の描く絵はクラスメートにも教員にも評価されず,自分がまったくいいと思わない他人の絵が評価されていく。思うようにいかない日々が続き,やがてその年度の最終評価を下される日が近づく。追い詰められた彼は,世捨て人となっているある画家の絵を譲り受け,それを自分の絵として出品する。
何かに追い詰められた青年が悪いことに手を出してしまうという物語展開はよくあるものだ。最近の映画では,例えば『ニュースの天才』のスティーブン・グラスも,仕事の多忙さと重責から新聞記事を捏造してしまう。彼らに共通するのは,一歩引いた目で眺め,合理的に考えれば,そうしなければならない必然性が見つからないという点だ。ジェロームはまだ若く,学校に入ってまだ1年目である。教員にも「じっくりやればいい」とアドバイスされている。また,一時しのぎの絵の盗用が長期的に見て無意味なことは誰の目にも明白だ。つまり,彼の決断は早急過ぎるように感じられるのである。さらに言えば,その行動はある目的を達成するための手段というより,引くに引けなくなった結果というように感じられるのである。
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