連載 ユースカルチャーの現在・59
動機のはっきりしない少年事件について
渡部 真
1
1横浜国立大学教育人間科学部
pp.556-559
発行日 2005年7月1日
Published Date 2005/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663100082
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登場人物
A 大学教師:教育関連学部で社会学を教えている。50歳台,男性。
B 大学生:教育関連学部の4年生。20歳台,男性。
はじめに
A 今回も少年非行の問題を取り上げましょう。
B 「レッテル貼りについて」「非行少年というレッテル」「少年非行と日本人」と続きましたが,今回はどのようなテーマを扱うのですか?
A 今回は,動機のはっきりしない,あるいは動機がないように外からは見える,少年による殺傷事件について考えましょう。1997年の神戸児童殺傷事件以来,この種の事件がいくつか続きました。怨恨でも金銭を奪う目的でもないのに,人を殺したりケガを負わせてしまった事件です。
B どうして,そのような事件のことを考えるのですか?
A 1997年の神戸事件以降,少年非行の深刻化が叫ばれるようになりました。そういう状況が,もう8年も続いているわけです。それに反応して,少年法が改正され,厳罰主義,学校と警察の連携,中学・高校の生徒指導の強化などもいっそう進みました。「青少年のマイナス方向への変質論」も力を持つようになりました。
ただ,この連載でも何度か取り上げましたが,日本の少年非行の実態が深刻化しているという事実は確かめられないのです。むしろ,社会学者の大村英昭さんが指摘しているように,「青少年における犯罪の衰退」が見られるというのが本当のところです。
もし,1997年以降の少年非行で,なにか問題が残るとしたら,神戸事件以後に発生した,動機がはっきりしない,いくつかの殺傷事件だけだと思います。これらは人々に大きな不安を与え,青少年観にも少なからぬ影響を及ぼしました。
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