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はじめに
日本における看護系大学教育は,保健師助産師看護師学校養成所指定規則ならびに大学設置基準のもとに,各大学の教育理念によって教育が展開されている。1993年前後の,当時の文部省,厚生省は,教育課程別にどのような特性を持つ看護師を育成するのかの教育指針は示していない状況であった1)。また,看護系雑誌等において,看護系大学卒業者(大卒者)が臨床現場で何を期待され,臨床では彼らをどのように活用していくかについていくつか報告されており2, 3),看護系大学側と卒業生を受け入れる臨床側とが大卒者のあり方について模索している状況がうかがえた。
看護系大学は,2003年4月の調査時点で108校4)となり,ようやく看護の高等教育の一般化が定着してきた5)。一方,首都圏では看護系大学は比較的早期に設置され6),虎の門病院では,看護師704名のうち修士課程修了者を含めて大卒看護師が4割を占め,2001年4月の新卒者では99名中74名で75%を占めるとしている7)。そのため,大卒看護師を特別な存在としては受け止めていないと報告している7)ことからも,首都圏では看護の高等教育の一般化が定着していることがうかがえる。
しかし,東北地方における看護系大学の歴史は浅く,1993年にはじめて国立大学として山形大学医学部看護学科が設置され,その後徐々に,各県に看護系大学が設立された。そのため,東北地方においては,臨床現場での大卒者はいまだ少ないことが予想され,東北地方の看護管理者が大卒者をどのように評価し,期待する能力についてどのように受け止め,大卒者を受け入れているのかについては報告されていない。
2002年には,看護教育の在り方に関する検討会報告書「大学における看護実践能力の育成の充実に向けて」がまとめられた8)。この報告書のなかで,各大学において教育の自己点検・評価や外部評価などを体系的に行い,教育活動の質の向上を恒常的に図ることが求められた。それと同時に,社会に対し看護学の学士課程が提供する教育内容の質を保証することが必要であり,また真に社会からの要請に合致した教育内容となることが望まれていることが改めて提示された。
本学は2002年度に看護学科創立10周年を迎えた。そこで,このような看護界の動きを受けて,本学科が実施してきた学部教育の内容を自己点検するとともに,独立法人化後の学部教育に関する中期計画・目標の策定に資することを目的に,2003年に学科内に調査班を編成し,さらなる教育の充実を目指すため,外部評価を得る調査を実施した。調査は,現在医療機関や保健所,市町村などにおいて就業している卒業生と,その直属の上司に行った。上司には,本学科で学んだ卒業生が就業先でどのように成長しているかを評価してもらい(当学科は外部からの教育カリキュラムの構築評価,在学生からの授業評価を実施してきたが,卒業生の上司から評価を得ることは初めての試みである),さらに卒業生と上司の評価を比較し,差異を確認した。
本稿はこの外部評価の一環として取り組んだ研究である。本学の教育内容の改善に反映すべく,東北地方の保健医療施設を対象に看護管理者の大卒者に対する評価や期待する能力と大卒者の受け入れ状況について調査したものを取り出し,これから求められるであろう大卒看護者のあり方を検討した。なおこの外部評価の全体の取り組みについては,今後まとめて詳細に報告する予定である。
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