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はじめに
「地域保健法施行後の保健所は強化されたか?」と問われれば,正直なところ戸惑いの色を隠すことができない。全国的には,基本指針に示された保健所の機能強化より,むしろ福祉事務所との一体化や支所化によるリストラ(人員削減)の方が進んだように思われる。そんななか,O157の集団発生をはじめとする健康危機管理に関する国民の期待が,一時的に保健所にとってカンフル剤となった。国の地域保健問題検討会でも保健所の活路として大きく扱われている。確かにヘルスプロテクションは保健所の重要な役割であり理解されやすいが,ヘルスプロモーションの理念にそった機能強化も忘れてはならない。
戦後半世紀の間に構築されてきた我が国の行政システムと社会保障制度は,21世紀を目前にして,今,大きな曲がり角にある。その起爆剤は,少子高齢化とともに深刻化しつつあるパーソナルサービスとしての医療保険や障害者福祉サービスに関する社会保障負担の増大であろう。
振り返ってみるに,「身近なところで保健医療福祉の連携がとれた一体的なサービスを提供するために」という地域保健法の基本理念は,地域保健をパブリックヘルス(公衆衛生)ではなく医療や福祉と同一次元のパーソナルヘルスサービスに矮小化されてしまい,個人の努力では対応できない地域住民による組織的な取り組みや健康を守るための社会環境づくりといったパブリックヘルス固有の役割機能に関する充実強化の議論を希薄化させてしまったように思う。
行財政改革や社会保障制度改革など歴史的な転換期にあって,今後は契約に基づくパーソナルサービスに関する公平性,公正さなどの質の確保,地域ぐるみの予防や自立支援・支え合いの仕組みづくりに関する期待がますます高まってくると考えられる。地域保健の役割は,措置や契約に基づくサービスとは一線を画しながら,個への関わりを通して集団や環境に対してアプローチする本来の役割強化を図らねばならない。
高知県は,全国で最も少子高齢化が進み,小規模自治体が多く,長年の駐在保健婦制度の影響もあって市町村保健行政の自立が遅れてきた。また,病院病床数が全国で最も多く1人あたりの医療費も高いなど,我が国が直面している問題の縮図的な県であるとも言えよう。高知県における経験から,これまでの地域保健の見直しと保健所機能強化を総括するとともに,マクロ的な視点から今後の保健所に期待される役割機能について私見を述べてみたい。
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