連載 使いみちのない時間・18
不可得
丈久 了子
pp.496-499
発行日 2001年6月10日
Published Date 2001/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662902452
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木陰のベンチに座り,男はベルトのすり切れた腕時計を見やった。時計は,午後の2時を指していた。男は軽く舌打ちをすると,もう一度,文字盤の秒針が動いているのかを確認した。まるで時間が止まってしまったかのような,長い午後だった。
初夏の風が,いかめしい大学のキャンパスを陽気に駆け抜けていく。陽の当たる芝のに上では,近所の幼稚園に通う戸どもたちが十数名ほど,丸く円をえがいてしゃがみ込んでいた。円の中心で,身振り手振りで話をする先生を食い入るように見つめている。園児たちの揃いの制服は,遠目にも眩しいくらいに輝いて見えた。
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