調査報告
水俣病患者のQOL向上に関する一考察
宮本 清香
1
,
松本 美由紀
1
1国立水俣病総合研究センター臨床部
pp.680-684
発行日 2000年8月10日
Published Date 2000/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662902243
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要旨
両目の不自由な高齢の水俣病患者が,生活全般の援助を要する精神遅滞の胎児性水俣病患者を抱えて,40年間その介護にあけくれた。母子2人だけの生活になった時,そこに展開された生活は,保健・福祉・医療など各施設の連携した援助抜きには考えられない状況となっていた。再三にわたる福祉サービスの利用や施設入園の勧めを拒否し,2人だけの生活を続けたこの母子の体験をとおして,水俣病患者のQOL(生活の質)の向上について考察を行った。
QOLについては「人生あるいは生活の満足(life satisfaction)」という概念でとらえ,WHO/QOL墓本調査票に基づく6つの領域(①身体的側面,②心理的側面,③自立のレベル,④社会的関係,⑤生活環境,⑥精神性/宗教/信念)に沿って考察した。
人には個性があり,さまざまな生活背景とともに人生観や価値観が異なるので,対応の仕方もマニュアルどおりにいかないことが多い。しかし,適切な援助を行うには,相手が自分の本心を自由に表現できる機会を作り,その言葉にしっかり耳を傾けながら,心を開いてもらうよう努力をすることが必要である。また,どんな逆境に置かれても,人は「生きがい」が目覚できると強く逞しく生きていけることを本例は示してくれた。このような生きがいも考慮にいれた援助のあり方を考えていく必要がある。
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